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日印グローバル・パートナーシップ・サミット2011


水野誠一((株)IMA代表取締役/ソシアルプロデューサー)

ジャグモハン・スワミダス・チャンドラニ(ジャパン・ビジネス・サービス(有)代表取締役、
江戸川インド人会会長)

佃一可(一茶菴家元十四世) 山田真美(作家/日印芸術研究所言語センター長(インド政府認可法人))

「今回は、日印の文化差異によって、どんな問題が起こり、問題解決はどのように行われていくのかを考え、相互理解を深めていきたい」と水野氏。そして、最初に「日本文化デザインフォーラム(JIDF)」についての紹介が行われました。今年、「日本デザインフォーラム」は、非営利任意団体から一般社団法人に組織を改定。日本国内の課題に留まらず、日本から世界に文化発信するために日本の文化をリ・デザインし、国際的視野を持って行動する団体として再スタートした旨が伝えられました。

氏はインドを「近くて遠い国」と称し、宗教や哲学、文化領域での交流の歴史は深いものの、最近は欧米文化のほうが身近で、インドは遠い存在に感じるといいます。そして、「ビジネスは、グローバルスタンダードによって行われる世界共通の文明的な行為。でも、実際の取り引きは、国の文化性に基づく価値観や行動に影響を受けます。したがって、インドとのビジネスを行うとき、コミュニケーション&カルチャーギャップを感じることが多いのではないか」とコメント。

水野氏は、文明と文化を織物の縦糸と横糸にたとえて説明。「縦糸が各国の文化、横糸が技術や機能、グローバルスタンダード、グローバルキャピタルとし、縦糸と横糸がうまく絡まったときにビジネスが成り立つという前提に今回のテーマを考えていきたい」とし、ゲストとパネリストにマイクをつなぎました。
プレゼンテーションのトップバッターを務めた山田氏は、インドをテーマにした著書を多数執筆。大学時代、通訳のアルバイトでインドの国会議員の東京視察をアテンドしたことが、インドにのめり込むきっかけだったと振り返ります。

最初に、山田氏の記事が掲載されたインドの英字新聞「ザ・ヒンドゥー」を紹介。研究テーマは、「マジックと神話」と紹介され、氏の隣にはサラスヴァティー女神、日本でいう弁財天の写真も。「日本でポピュラーな弁財天が、インドから渡ってきたと知る日本人は少ない。サラスヴァティーとは、水を持つ者という意味で水の近くに祀られています。日本では、琵琶湖に日本最大のサラスヴァティー・テンプルがあります」。

続いて、インドの大富豪の絢爛豪華な結婚式の写真を紹介。「かけた費用は、なんと75億円。インドでは、庶民でも結婚式に多額のお金をかけます。一方、お葬式は、川岸に組んだ薪で遺体を火葬したり、鳥葬や魚葬を行ったり、非常に質素」。死後は、ただ輪廻転生を願うという潔さが日本人の感覚と大きく異なるところ。「カルマに対する考え方を理解できるか否かが、インド人を理解するポイントです。ビジネスで成功するか否にも大きく影響する」と山田氏はいいます。また、これからインドに行く日本人が知っておくべきキーワードとして、マハトマ・ガンジーとスバス・チャンドラ・ボースという、2人の建国の父の名前が挙がりました。
日本在住歴30数年のジャグモハン・スワミダス・チャンドラニ氏。当初は、長期的に日本に滞在してビジネスができるのか、信用してもらうまでに時間を要したことなど苦労したエピソードを披露。また、日本とインドの文化における共通点の多さに驚き、ただ、ビジネスにおいては、文化・習慣の違いを実感したそう。

日本の教育についても触れ、「日本の教科書では、インドについてほんの数行しか書かれておらず、限られた情報ゆえに日本人からはほとんど同じ質問を受ける。でも、一言で語れるほど、インドは単純な国ではない」といいます。「カースト制度についてよく質問されますが、誤解が大きい。カースト制度を通じてインドを見る人は多く、でも現代のインドは共和国なのでみんな平等です」。

仕事に対する意識の差異については、「インドでは役割分担が明確。ただ、これはカースト制度によるものではありません。日本では、自分の役割以外に掃除はみんなで、といった助け合いの精神があり、インド人には理解が難しい場合があります」。そして、「日本人は小さな島国の特性で、みんなが譲り合い、助け合って生活している。言葉で意思を伝えなくても、システムの平均を目指せば周りの人と足並みが揃う」とも。「一方、インドでは、地域ごとに常識も習慣を異なります。そして、仕事では、最初に指示された分は働くけれど、それ以外は別料金という考え。提示額の範囲内で失敗のフォローまで行う日本人の感覚と大きく違うところです」。
日本は緑茶、インドは紅茶、お茶の生産地という共通点を持つ両国。共に自国の茶文化を大切にしていると佃氏。そして、「インドでお茶をご馳走になったとき、茶文化に対する誇りを感じました。また、お茶をサーブしてくれることが、コミュニケーション上とても重要。その心を理解することがビジネスでも大切です」。

興味深かったのは、種子島付近を走る北緯30度線をインドまで真西にたどると、線上に中国、インド、日本の良質な茶の産地が浮かび上がるという話題。また、日本とインドの茶畑の違いに驚いたとも。「アッサム地方の夏は陽射しが強く、それは日本の常識では茶の栽培にもっとも不適切と言われる環境。インドのお茶は、陽の光をたくさん取り込めるように手のひらを表に、日本は陽射しを避けるように裏向きになっています。陽の光に対する考え方が正反対」だと、両国のお茶と陽の光の関係について言及。

また、「茶葉の加工法も日本とインドでは異なり、日本では、蒸気をあてて青臭さを取りますが、インドではその青臭さこそがコクを生むと考えられています」。もうひとつアッサム紅茶の特長として、CTC茶葉についても説明。「Crush(押しつぶし=発酵促進)、Tear(引き裂き=抽出しやすく)、Curl(丸める=コクを出す)を、インドだけの技法として開発している」といいます。こうした技法から見ても、「インド人は論理的でドラスティック。手探りで物事を進めるということがない。日本人は、相手の胸中を探りながらという場合が多い。ビジネスでも、そうした国民性を踏まえてつきあうのがいい」というアドバイスがうかがえました。


「明治以降、日本は西洋文化を取り入れ、技術力や経済力などさまざまな部分で急速な発展を遂げてきました。同時に、日本独自の魅力を失ってきたように思えます。スムルティさんの話を聞き、インドの文化がとても心に響いた。グローバルスタンダードでは解決できない精神的な問題があることを実感しました。インドも今後、独自の精神性の喪失という問題に直面するかもしれません。お互いに自国の文化を再確認し、積極的に文化交流を図るべき」と、二国間におけるこれからのパートナーシップに一言いただきました。
前半で「カルマがインド人を理解するうえでのポイント」と発言した山田氏。「インドはゼロという概念をはじめ、さまざま発見をしてきました。死んで終わりではないという、輪廻転生の思想もしかり」で、この思想がインド人に特別な人という印象を植え付けているのではと見解。「そして、一歩引いて相手の心を探りあう日本人に対して、インド人はきわめてあからさま。ただ、インド人はロジックだけでなく、”あまり”の部分を持っているのがすごいところ」とし、次のようなエピソードを紹介しました。

お金を盗まれて困っているインド人のもとを通りかかった異教徒の人が、当分の間生活に困らないだけの金額を渡して立ち去ってしまう。「かならず返します」と言うと、その人は穏やかな口調で「気持ちがあるなら、困った人に出会ったときそのお金を渡しなさい」という寛容な言葉を返したといいます。「インド人の本質はとてもやさしく、私たち日本人は学ぶことが多い」と、最後にインド人に対する感謝の気持ちを述べました。
20世紀以降の日本について、佃氏は「私たちの持っている知恵は、技術革新にばかり注がれてきました。実は、人を救っているのは、ヒューマニティであることを忘れてはならない。技術とヒューマニティの調和が次の文明をつくり、インドは今、この二つがバランスを取りながら発展しているのでは」とコメントしました。
独自の文化を長く守っていることが日本のすばらしいところとし、「若い世代は、この豊かな文化に目を向け、理解し、またインドからも多くのことを学べるはず」と、日本の未来を担う若者たちへのアドバイスが聞けました。
水野氏は、尊敬する人物としてインドの詩人で、日本とインドの文化交流の足がかりをつくったラビンドラナート・タゴールを紹介。そして、『海を見ているだけでは、海をわたることはできない』という、タゴールの言葉に触れ、「今の日本の政治状況にぴったりの言葉。国際社会で高い評価を得ているにも関わらず、国内に留まっている。もっと世界に向けて発言し、出ていくべき。もう一度、誇るべき自国の文化を理解すると、そこからさまざまな可能性が見えてくる」とコメントし、プログラムは幕を閉じました。