
第17回 ぎふ 「連・系・譜 - 未来のつかい方」(1996年)
[授賞委員長] |
残間里江子 |
[授賞委員] |
稲越功一 |
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大友直人 |
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隈研吾 |
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中沢新一 |
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日比野克彦 |
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三宅理一 |
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山城祥二 |
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山本容子 |
日本文化デザイン大賞 |
伊福部昭 氏(作曲家)
[授賞理由]
1914年(大正3年)生まれの伊福部昭氏は、その独創性に溢れる個性的な作品によって、数多くの音楽家や聴衆から愛され、尊敬され続けている類まれな作曲家である。豊かな感性と幅広い知識、そしてアカデミックな技法に裏打ちされた氏の作品は、大自然を思わせるような雄大かつ繊細な時空間の率直で力強い表現によって、常に我々に創作というものの原点を直視させる。これはまた、時代の流行にとらわれない一貫した創作姿勢の賜物であろう。シリアスな作品はもとより永年に亘る映画「ゴジラ」の音楽においても大衆からの支持は厚い。また、教育者として、故・芥川也寸志氏、石井真木氏、黛敏郎氏、といった日本音楽界のリーダー達を輩出させている。
今も衰えを見せない創作力とその作品は、創造の世界に携わる全ての人々に、生きる喜びと勇気を与え続けている。(大友直人)
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日本文化デザイン賞 |
飯島洋一 氏(建築評論家)
[授賞理由]
建築評論の分野で活躍する飯島洋一氏は、当初から建築なる現象を文化の基盤として把握し、建築家のさまざまな試みと現実世界との間で発生するもろもろの精神的軋轢が社会をリードする創造的行為となりうることを、長らく主張し続けてきました。ここ最近「アメリカ建築のアルケオロジー」(1993)、「終末的建築症候群」(1994)などいくつもの著書を世に問い、みずみずしい感性によって今日の文化的パラダイムの変換を建築を通して指摘しています。なかでも今年に入って書き下ろした「王の身体都市」は、我が国の文化の根底に潜む天皇制の問題が建築や都市の形成にどのように作用してきたかを大胆に問うた野心的な著書といえます。建築家の活躍にたいして建築批評が貧弱な我が国の風土のなかで、徹底して評論に賭ける氏の姿勢は、活字離れが進む若手建築家やアーティストにたいしてもひとつの警鐘となるでしょう。(三宅理一)
原研哉 氏(アートディレクター)
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サンパウロ現代美術館
ポスター展参加作品
「MUSUBI」 |
[授賞理由]
「アートと実用性の合流する地点で僕は釣りをしている。」 この、原氏の発言の裏には、社会とグラフィックデザイナーとの関係に対して向けられたひとつの繊細なまなざしがある。言い方をかえれば、グラフィックデザインの社会性という問題に対して、原氏はきわめて意識的であり、その意識はまた、当然のことながら単に意識のレベルにとどまらず、彼のデザインのクオリティ、特質に対しても直接的に投影されている。
再び言い方をかえれば、デザインの社会性という、巨大な問題構制の前では、個性、モダニズムといったたぐいの古くさい諸概念はすべて無効であるということを、原氏は具体的なデザインの実践を通して主張しているのである。デザインすらもその問題の前では必要ないかもしれないというぐらいに、彼の腹はすわっている。そこに原氏のデザインの新しさがあり、またそのすわった腹の上にどんな巨大な花がさくかに、僕は大きな期待を寄せるのである。(隈研吾)
面出薫 氏(照明デザイナー)
[授賞理由]
ヨーロッパやアメリカでは、照明デザイナーは大変な信頼を得ています。光が建築にとっていかに大事かを分かっているからです。面出さんは、そういう考え方を日本に持ってきた方です。
特に今回、面出さんを推薦したのは、照明探偵団という、市民が街並みに目を向けるという非常にすばらしい活動をしているからです。
それによって日本の街の光を変えていくきっかけになるのではないか、と期待しております。
(隈研吾)
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会員賞 |
杉浦日向子 氏(江戸風俗研究家)
「すばらしい時代錯誤者」
杉浦日向子さんが現れてくれたおかげで、日本人の精神生活は、とても豊かなものになりました。とかく後ろ向きなイメージでとらえられてきた江戸の世界が、むしろ日本人の背丈にあった、きわめて豊かな近代文明の華であったことを、私たちは彼女の仕事によって、はっきりと知ったのです。その世界の深さ、ユーモア、知性、優しさを彼女から教えてもらった私たちは、いまでは自信をもって、明治のご一新などはむしろなくてもよかったもので、日本人には別の近代の可能性も開かれていて、それは江戸の世界の豊穣にまっすぐつながっている、とはっきり語ることさえできるようになったのです。彼女の仕事は、まちがいなく日本人の頭と心を柔軟にしてくれました。それもこれも、彼女が自分の生まれる時代を錯誤してくれたおかげです。そのへんのおっちょこちょいが、またかわいいんだな。とにかく漫画と文章によって、日本文化をいい形に造形することができた、彼女はまことに希有な女性なのです。(中沢新一)
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